微かに鳴り響く音はやがて大きなうねりとなり地面を唸らせた。
爆発音と共に低い地鳴りが辺り一体の近況を伝えてくる。
予想していたPDAへのコールは鳴らず妨害電波が出ているのだと瞬時に判断を下した四人は他のヒーローたちを信じ連れ去られた護衛対象の少女を取り戻すべく扉の外へと突き進んだ。
「くっそ。工場地帯だかって気軽に爆破すんじゃねーよ!」
「まったくだ」
「でもまだ他の人間が居ないだけマシでしょう」
「ですね……」
虎徹、アントニオ、バーナビー、イワンの順で喋りながら暗い工場の中を走り抜けてゆく。
そんなときだった。行く手を阻むように防火シャッターが勢い良く四人めがけて落ちてきたのは。
「ちっ――!」
「こっちだっ!!」
ずぅぅぅううううん――と腹にくる轟音と共に四人は分断を余儀なくされてしまう。
虎徹が先頭を務め順にイワンとバーナビー、そして殿にアントニオの順で走っていた年長組は近くに居た人物の腕を掴みその場から飛び去るように移動した。
コンマ何秒の世界で虎徹にしろアントニオにしろそれを可能にしたのは今まで培ってきたヒーローとしての経験がものを言ったのだろう。
イワンとバーナビーは一瞬音に驚き身を固くしてしまったのだから。
「おーいそっちは大丈夫かー!?」
「あぁ、俺もバーナビーも大丈夫だ」
「そっか。俺も折紙も怪我ないぜ!」
「ならいい。……しかし配電盤系統もジャックされてる可能性が出てきたな」
「だな」
「んじゃちょっと離れてろよっ――!」
舌打ちにも似た声と共にアントニオは防火シャッターめがけ盛大に蹴り込んだ。
能力を発動したまま威力を増すためにわざと回し蹴りを食らわせたにも関わらずアントニオが起こした打撃音だけが辺りに響いた。
蹴り込む一瞬、アントニオはバーナビーの驚いた表情を捉えていたがそのまま虎徹との会話を続ける。
「ちっ意外と頑丈だな」
「あぁみたいだな」
「壊すにしても確実に能力の無駄遣いになる。仕方ない、そっちは任せたぞ」
「おうよっ! そっちも気を付けろよっ〜。また上でなっ!!」
ゴン――と拳で防火シャッターを殴ったのを合図にきびすを返すようにそれぞれのペアの方へ向き直した。
虎徹はイワンにアントニオはバーナビーへ表情を和らげた笑みを送って。
若干アントニオの場合は挑発めいた笑みも含まれてはいたが……。
「見ての通り合流は無理だ。バーナビー、この建物の図面は頭に入ってるな?」
「えぇ、もちろんですよ」
「なら話は早ぇ。俺たちはウエストから屋上へ向かうぞ」
「……分かりました」
バーナビーはちらりと防火シャッターを見やり、直ぐに気持ちを切り替え走りだしたアントニオの後に続く。
階段を駆け上がり、階に到達するごとにアントニオは淀みなく辺りの気配を伺いながらバーナビーへと指先で指示を送る。
息を切らすことなくポイントポイントを抑え辺りを伺うアントニオの仕草は妙に手馴れておりバーナビーに違和感を覚えさせる。
けれど今ここで聞くのは適切ではないと己に言い聞かせバーナビーは無言でアントニオの指示に従い行動する。
こっそりと虎徹さんもコレくらい出来ればいいの――などと失礼なことを思いながら。
「――俺と一緒で悪かったな」
平行して走っている最中に不意に話しかけられバーナビーは咄嗟に返事が出来ずにいた。
そんなバーナビーを見て気配を和らげたアントニオは虎徹と一緒にできなくて悪かったな。と謝罪の言葉を口にした。
「いえ……。折紙先輩に学ばせるため――ですよね?」
「あぁ、あいつはまだ体が出来てるわけじゃないからなら。
比較的体格の近い虎徹が一番適任なんだこういうことはな」
「確かにそうですね。でも僕もあなた貴方から色々と学ぶべきところはあるように見受けますが?」
「くくくっ。俺からなんぞ学ぶもんなんてねーだろ? ドベだしな〜」
にんまりを口元を歪めながらアントニオはこの場に相応しくない楽しそうな笑みをこぼした。
その笑い方がどこか虎徹に似ていてあぁこの二人は本当に親友なのだな――とバーナビーは改めて実感した。
「この件に関しての主導権はロックバイソンさんが持ってるでしょうにご謙遜を。
でも――どうしてです?」
「あー……仕事の一環で身辺警護もやってたんだよ。特に俺は能力が能力だから重宝されてな」
「それで手馴れてるんですか?」
「まぁな。一応これでも軍隊や警察で何度も訓練受けたからなー。
もっとも軍隊での訓練は虎徹も一緒だったんだが……」
「なにかあったんですね?」
「そんときの上官がネクスト差別者だったんだよ。
んで訓練と称して俺と虎徹を森ん中に放り出したまま襲撃していたぶろうとしたこともあったなぁ。
あんときゃー食いもんすら与えられなかったから現地調達だったぞ」
にぃっと笑う笑みにその言葉通りでないことに思い辺りバーナビーは顔を顰めた。
遠い記憶をのんびりとした口調で話すアントニオに憂いすら無いのを見ると襲撃し返したのだろう。
「いまお前が思った通りで概ね合ってるぞ。
ただあんまレーションは美味くなくて途中から普通に狩ってたがな」
並走するアントニオは喋りながらも走る速度は落ちない。
バーナビーは虎徹共々年長組の引き出しの多さに苛立ちを覚えながら、同時に辛い思いを乗り越えていまこの場に居るのだと唐突に理解する。
そして隣にいる人物の詳細なデータを己の中で上書きしてゆく。
「……凄いですね」
「ま、幸い時期には恵まれたから凍死する心配だけはなかったがな〜」
「他にも?」
「んー俺の場合はネクストの能力が出てから親に捨てられたりとか――まぁ色々あったな。
けど今はこうしてヒーローやってるから人生どうなるか分かんねーよ」
「――っ!?」
さらりと告げられた言葉の重さにバーナビーは思わず足を止めてアントニオをまじまじと見つめてしまう。
真剣な表情から一転、アントニオは目を細め柔らかな表情を浮かべ問いかけるように言葉を紡いだ。
「過去がどうであれいまはやりがいのある仕事に就いてるし、守りたいものがある。
それに譲りたい者もいるからな昔がどうであれ今の俺は幸せだよ」
ふわりと愛しい人を見つめる眼差しを送られバーナビーはどきりとする。
その直後すぐに男臭い笑みを湛えたアントニオは「でも他の奴らには内緒な?」とちょっと困った顔をしながら呟いた。
「分かりました。でも……彼は知ってるんですか?」
「あぁ付き合うって決めたときにちゃんと伝えてある。もっとも知ってるのはお前で3人目だがな」
促すようようにアントニオの大きな手がバーナビーの背中をぽんっと叩く。
その一瞬の動作に虎徹の親友である彼から信頼を得ているのだと理解し、バーナビーは少しだけ嬉しくなった。
――― To be continue? ―――
【 初出:2011/11/27−pixiv『 AAU 』より 】