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 最初、アニエス経由で請け負う羽目になった仕事は虎徹とアントニオの二人だけだった。
 忘れた訳じゃないんでしょう――というアニエスの無言の眼差しに頷くしか無かった二人は顔を見合わせながら降参とばかりに両手を上げた。

 それから数日後。
 待ち合わせの場所となっているホテルの一室で虎徹とアントニオは用意された衣装を無言で身につける。
 置かれていたそれぞれの箱を開けた瞬間、二人はうわぁ……という声とともに顔を歪ませた。
 仕事着として置かれていた黒いスーツは見るかに高級感を漂わせ、衣装を用意したのは依頼主だろうと、と目星をつける。
 さらに箱の中には虎徹が一番見慣れたロゴと自社のメカニックである斎藤によるカスタマイズ済み――というメッセージに天を仰いだ。
 斎藤が一枚噛んでいればただのスーツではないのだろう。質感はそのままに、どうカスタマイズされているかは分からないがこれで危険度はぐっと下がるのは目に見えている。

「しっかしなんでバニーまで居るかなぁ」
「むしろ何故相棒である僕ではなく折紙先輩だけを指名したのかが気になるのですが?」

 部屋で待たされること十分少々。
 ドアがノックされ、現れた人物に虎徹とアントニオは驚愕の表情を浮かべた。
 次いで部屋に入ってきた人物はまだいい。二人がこの仕事を請け負うならばこいつも――と指名したのだから。
 だが虎徹のバディであるバーナビーは別だ。本来ならば単独の仕事が入っていたはずだ。
 しかもバーナビーだと分からないように髪の毛が黒く染められ、項のあたりで一本に縛られているところを見ると仕事の概要は既に言っていることが見て取れた。

「お前別件の仕事あったじゃねーか」
「仕事が出動要請で潰れた場合の予備日だっただけですよ。なのでこの件は僕も参加します」
「ま、調度良かったんじゃないか? 四人の方がなにかと都合がいいからな」
「そうだなー」
「あぁでもバーナビーは今回は虎徹とじゃなくて俺と一緒に動くようにしてくれ」
「――何故ですか?」

 明らかに困った顔をした虎徹にアントニオは仕方ないとばかりに助け舟を出す。
 ついでとばかりに4人の振り分け方を提示すればバーナビーは片眉をぴくりと動かしアントニオの方を向いた。
 一応は敬意を払っているのだろう、ぐっと堪えた声色で問いかけてきたのだから。

「どうしてもだ。この条件が飲めないのであれば今直ぐお前は帰れ」
 はっきりとしたアントニオからの拒絶の言葉にバーナビーだけではなく今まで無言でおろおろとしていたイワンさえも驚きの表情を浮かべた。
 いつもこういった意思表示をするのはなにかとヒーローの中で中心になりやすい虎徹であってアントニオではない。
 そして虎徹から提示された条件を呑むのはアントニオ――という図式が出来上がっているのだから。

「しかし――」
「理由を聞かなければ分からないほどお前は甘ちゃんなのか?」

 細められた目で射ぬくように見られたバーナビーは一瞬だけ体を固くした。
 同時に揺るがない眼差しの強さにバーナビーは苦虫を噛み潰したような顔のまま条件を呑むことになる。
 アントニオとバーナビーのやり取りを心配そうに見つめていたイワンもほっと安堵の溜息をついた。

「さっき言った通りバーナビーは俺と。折紙は虎徹と常に行動を一緒にしてくれ。
 なにかあったらインカムで――と言いたいところだが妨害も考慮しないとだろうな」
「だな……。もっともなんにも起こんないのが一番なんだろうけどなぁ〜。
 あーやだねぇ。権力争いってのはさ」
「普段とは内容は違うがこれも護る仕事なんだ。しっかりやれよ」
「お前に言われなくともわかっとるわ!」

 ぺしりと虎徹の裏拳がアントニオの胸板を叩いたことで二人の会話は終了した。
 そして無言のまま互いの拳を軽くぶつけあったあとまだ着てなかったスーツの上着をはおり襟を正す。
 緩めておいたネクタイを締めなおし、カフスボタンを止め、最後に二人共形の違う黒縁眼鏡をかける。
 女だけでなく、男も服装一つで印象がガラリと変わる。
 先ほどまで軽いじゃれ合いにもにたやり取りをしていた虎徹とアントニオも例外ではない。
 おちゃらけた三枚目で居ることが多い虎徹が黒いスーツを着て、気を引き締め無言で居るだけで落ち着きある男の色香を醸し出し、普段は隠され気味な端正な顔立ちが浮き彫りとなる。
 一見すると相手に近づきにくい印象を与えやすいアントニオはよりその印象を強くしながらもどこかストイックな面が表に出てきて見るものに守られたい――という願望を与える。
 虎徹にしろアントニオにしろもしここがホテルの一室でなければ、もし街中の一角に佇んでいたならば――その場にいる人達の目を奪い、熱のこもった視線を送られていただろう。
 依頼内容が護衛である以上黒いスーツを着用するのは理解出来ていたバーナビーとイワンは目の前に居る真摯な表情を浮かべたままの恋人を見て眼鏡をかけた意味を知る。
 虎徹もアントニオの目はいつも以上に力強く、それを隠すためにわざと眼鏡を着用せざる得ないのだと――。

 おい大丈夫か? とアントニオが心配そうにイワンを気遣い顔を覗き込む。
 おーいもう行くぞー? と声をかけながら虎徹はバーナビーの目の前で手のひらをひらひらと動かす。
 そして初めて自分たちが意識を飛ばしていたことにバーナビーとイワンは気がつき顔を赤らめながらも大丈夫ですと答えるので精一杯だった。

 行くぞ――という虎徹の掛け声に残りの三人は無言で頷く。 念のためにと部屋を出る前にそれぞれ身支度を確認してから部屋から出てゆく。
 先ほどまであった音と熱は開け放たれた扉と共に消え去り、ただたた部屋は無音の世界と化した――。


   ――― To be continue? ―――

【 初出:2011/11/26−pixiv『 AA 』より 】