疲れているのだから少しは休まなければ――
朝から女性特有の理由故にあまり体調が良くなかったバーナビーは虎徹に誘われた昼食も断り仮眠室へと逃げ込んだ。
ヒーロー事業部専用の仮眠室への鍵はヒーローである二人の指紋とその上司であるロイズ氏しか認識しない。
だから安心して眠ることが出来る。やや霞がかった思考のままバーナビーはベットへと倒れこむように着地した。
ついいらいらしてしまう自分にも腹が立つが、同時に午前中に受けた下世話なインタビューの内容にも悪態をつきたくて仕方がない。
しかし今はそんな余裕すらなく瞼を閉じてまどろみの中に身を委ねた。
水中から顔を出すような浮遊感を感じながらバーナビーの意識は次第に覚醒してゆく。
そういえば時計のアラームを仕掛けないまま寝ていたことに気がついたバーナビーは焦った。
無音のままだったPDAはまだ良いとして昼休みとはいえ勤務中だったはずだ。
しかもだいぶ疲れがとれていることを考えれば予定よりも長く寝てしまったことになる。
「あ、れ……?」
閉ざしていたままの目を開ければ目の前には肌色のなにかが。
しかもベットから起きようと体を動かせばがっちりとホールドされていることに気がついた。
「えっ?」
一気に覚醒を促され、今まで感じて居なかった嗅覚が一気にバーナビーの脳へと情報を送り込む。
肌色に見えたなにかはバーナビーの相棒である虎徹の胸板だった。
それもいつも身につけているネクタイは見当たらず、思いっきり胸元がはだけている。
見ればシャツの第三ボタンまで綺麗に外されていた。
「――っ!」
バーナビーは虎徹を恋愛感情として好きだった。
しかし気持ちを打ち明ける気すらなく、ただ対等な相棒で居られればいいと思っていた。
「な、なんでっ!?」
呟いたばかりのバーナビーはそこで気がつく。
自分の右手がしっかりと虎徹のシャツを握り締めていることに。
そして虎徹の逞しい腕がバーナビーを包み込むように抱きしめていることに。
「……ん、あ? あぁバニー起きたんだ。おはようさん」
「あ、おはようございますっじゃなくて! なんでこんな体制になってるんですかっ!?」
のんきな声がバーナビーへと頭上から降り注ぐ。
そしてくしゃくしゃになっている髪の毛の感触を楽しむかのように虎徹はバーナビーの頭を撫でた。
「あ〜言っとくけどなんにもしてねーから安心しろよ? まぁ寝やすい格好はさせて貰ったけどよ。
んで寝てるバニーちゃん起こしに来たらいきなり洋服掴まれてそのままベットに押し倒されたんだよ。
おじさんシャツのボタンが引き千切られたかと思ったわ」
「そ、そんなはずっ!」
「んー無いって言われてもなぁ事実だし。いまもこうしてバニーちゃん俺のシャツ握りしめたまんまだし?」
バーナビーの顔を覗き込むように虎徹の顔が近づき、そのまま額と頬に口付けられた。
ただでさえ真っ赤になっていたバーナビーは更に体全体すらも赤くし、言葉が上手く紡げないのかぱくぱくと唇を動かすだけだった。
「おじさんこれでも頑張ったのよ? ベストを握られてたならまだ服脱げば良かったんだけどなー。
思いっきりシャツ握りしめられちゃってたし、放す気配すらないしさぁ。……擦り寄ってくるし。
まぁでも思ったよりちゃんと眠れたみたいで安心したわ」
へらりと虎徹は笑ったままバーナビーの後頭部をぽんぽんと軽く叩いた。
しょーがないなぁなんてそんな心境が織り交ぜられたような仕草で。
「ロイズさんから一応半休貰ってあるけどどうする? 送ろうか?」
抱きしめていた虎徹の腕がバーナビーの体から離れ、温もりが遠ざかる。
うるり――とバーナビーの目頭が熱くなった。
「うわっ、泣くほどまだ痛いのか!?」
感情が高ぶったまま、言葉を喋れずバーナビーはただ首を横に振ることで否定した。
いらいらしてた。むかついてた。でも今は――この温もりが恋しくて仕方がなくて。
「あーもー泣くなよ。目、真っ赤になって本当の兎ちゃんになっちまうぞ?」
茶化した虎徹の言葉なのにバーナビーはなぜか優しさを感じ本能の赴くままにすがりついた。
バーナビーの様子が普段とあまりにも違うせいもあって虎徹はそのまま引き剥がすこと無く彼女を抱きしめた。
――バーナビーは夢を見ていた。
真っ白で柔らかくて暖かくてそしてふわっふわで気持ちいものに包まれている夢を。
声を押し殺したままバーナビーはただ泣いた。
優しい夢を見れたのは何十年ぶりだっただろうか、とバーナビーは思った。
同時にその夢を見せてくれたのは隣に寝てくれていた虎徹のせいだと分かり、バーナビーは苦しくなった。
諦めなければならない気持ちと、どこまでも加速する恋心との鬩ぎ合いにいつしかバーナビーは眠りについた。
しょうがない兎ちゃんだなぁ〜と軽口を叩きながらも嬉しそうに微笑んでいた虎徹を見ずに。
ただ体が休息を求めて――。
――― END ―――
【 初出:2011/10/17−Pixiv『 休息を求めて 』より 】