撮影スタッフ内に居る女性陣たちに囲まれ、虎徹は為す術なく服を脱がされしょぼくれた。
少しだけ気の毒に思いながらもバーナビーは顔出さずに済むんですからいいじゃないですか、と言葉をかける。
でもさぁ、バニーちゃんの写真集のための撮影だろ。俺いらなくね? とふてくされ気味に虎徹は続けた。
「またロイズさんの話をちゃんと聞いていませんんね。まぁいつものことですけど」
「だって俺興味ないもん」
「いいですか。今回の写真集はBUDDYというタイトルで写真集を出すんですよ。タイトルからわかるように虎徹さんもいなければ意味が無いんです」
「そうなの? だとしてもどうせ俺おまけだろ? なんで服を脱がされる訳?」
「文句ならあそこにいらっしゃる女性の監督へどうぞ。顔出ししたくないっていう貴方の要望に答えた結果、上着を脱がされたということもお忘れなく」
「へいへい。わかりましたよーだ」
虎徹はそのままぷいっと顔をバーナビーから背けた。
いい年した大人がが拗ねてどうするんですか、と敢えてバーナビーは言わない。余計にすねたら後が面倒だからだ。
しかしいくら拗ねようが始まってしまった撮影会が無くなるわけではない。
唯一あるなら出動要請が入った場合だけだが、今回はロイズさんがすでに手を回してPDAが鳴らないように手配済みだ。
もちろんヒーロー業務を怠ることを一番嫌う虎徹が知れば怒るだろう。
それでもすでに2度、出動要請のために写真集のための撮影がキャンセルし延期されているのだ。
これ以上伸ばすことは出来ないから、とロイズさんが言っていた。もちろんバーナビーだけに。
今回の写真集のコンセプトはタイトルの通り、相棒らしさを求められる。
かといってヒーロースーツ姿は撮影されることはない。ヒーローTVを見れば済む問題だからだ。
だから今回の写真集のコンセプトはもう一つある。相棒との日常――という少しだプラベートに入り込んだものだ。
そのコンセプトを活かすためか二人がいつも乗るトランスポーターの中身そっくりに作られたセットや、柔らかなアイボリーカラーでまとめられた寛ぎやすい空間などが作り出されていた。
「すげな、ほんと本物そっくりだった!」
撮影が開始される前は渋っていたのに、トランスポーターそっくりのセットを見た虎徹ははしゃいだ。
目をきらきらさせて子供のように屈託の無い笑顔を浮かべて。
同時にセット作りに携わっていたらしい撮影スタッフは嬉しそうに、誇らしげに虎徹を見ていた。
こっそりバーナビーが人たらしめ! と虎徹に対して毒づいていたのは仕方がないのかもしれない。
気がつけば虎徹は周りにいる人間の視線を集めるのだ。バーナビーとは別の意味で。しかも無意識だから手に負えない。
ヤキモチを焼いてしまった己を恥じ、バーナビーはため息を一つこぼした。
アンダースーツを着たままでの撮影は順調だった。バーナビー主体での撮影であることと、トランスポーターに似せられたセット内であることが虎徹の緊張感を溶かしたからだ。
次いで柔らかなアイボリーカラーのソファーに座ったまま談笑する二人と撮影しようとスタッフが動き始めた時だった。
今回の写真集の総責任者であり、カメラマンである女性が虎徹に確認をした。アイパッチ無しはNGなのよね? と。
即座に返事をした虎徹をまじまじとした女性カメラマンは考え込んだあと、数人の女性スタッフを呼び集めた。
そして話は冒頭に戻る――。
女性カメラマンは的確な指示を周りに飛ばしながら躊躇することなくシャッターを切る。
よどみなく響く音はスタジオ内に溢れ、やがてその場に居る全てに一体感を味合わせてゆく。
己の見せ方を知っているバーナビーは的確にカメラマンの意図を汲み指示に従う。
逆に虎徹は本能的にカメラマンからの意図を理解しているらしく、駄目出しされることなく撮影は続けられた。
シャワーを浴びた直後のように演出された二人はスラックスだけを見にまとった状態のまま内緒話をし続ける。
ただしバーナビーはカメラマンの方を向きながら視線は虎徹に合わせ、虎徹は逆に背を向けたまま横を向いてバーナビーを見たまま。
はじめこそどこかぎこちなさを残す虎徹もすっかりバーナビーとの会話を楽しんでいるようで写真を取られているという認識が薄まったようだ。
かなりリラックスした表情が虎徹の口元に浮かぶ。
なにより先ほどからたわいない話で盛り上がっているらしく、クールさが売りのはずのバーナビーでさえ楽しそうな笑みを浮かべているのだ。
相棒だけに見せる穏やかさが含まれた優しそうな笑みが見え隠れし、カメラマンはほくそ笑む。
同時に想像以上に被写体として極上だったワイルドタイガーの存在に感謝した。
虎徹は表情だけが豊かなわけではない。全身全霊で喜びも、怒りも、悲しさも、楽しさの全てを表すのだ。
すぐさまそのことに気がついたカメラマンは虎徹に一つの指示を飛ばした。合図があるまでずっと背中を向けているように――と。
ベテランとなったワイルドタイガーの背中は誰よりも雄弁だった。
すでに目立ちにくくなっているが大小様々な傷がヒーローとしての彼の年月を告げていた。
同時にワイルドタイガーの背中は語る。市民を守るために戦い続けてきた男の姿を。
更には戦うために作りこまれた実践的な肉体の美しさを物語っているのだ。
だからこそ逆にワイルドタイガーの顔を写さないようにした。
ただ見えないだけだと物足りないだろうから、互いの相棒を見るように二人に指示を飛ばして。
ワイルドタイガーは横顔だけで十分なほど表情を語りかけてくれた。
相棒のバーナビーに対してその都度表情を変えながら接し、横顔だけなのに年上としての包容力すら分かるほどに。
バーナビーは虎徹におでこを丸出しにされてぺちりと叩かれる。
むくれた表情を見せたバーナビーに虎徹は優しい笑顔を向け、彼の耳元で二言三言呟いく。
その言葉にバーナビーは一瞬だけ驚いた表情をみせ、破顔する。
虎徹のにやけていた笑みはすぐに切り替わり、バーナビーの頭を優しく撫でた。
発売される予定の写真集にワイルドタイガー単体の写真が1枚だけある。
やはり背中を見せつけたままの構図なのだが、ワイルドタイガーの表情がよくわかる写真だった。
自愛に満ちた優しい笑みを湛えたままの奇跡のワンショットとも言える写真が。
『そういえば二人とも何の話をしてたか聞いてもいいかしら?』
『たいしたこと喋ってねーぞ?』
『ええ。ただちょっと料理の話を』
『料理? お二人とも料理を?』
『まぁちょこちょこなー』
『えぇ。ワイルドタイガーに料理を教えて貰ってる最中なんです』
『やはり外食だと栄養が偏るからかしら?』
『いえ、どちらかと言えば趣味として――ですかね』
カメラマンとそんな会話をしたことすら忘れた頃、虎徹とバーナビーに一つの企画書が手渡されることとなる。
キッチンスタジオを借りて、ヒーローの休日と銘打った写真撮影の企画書が――。
〜 Fin 〜
【 初出:2011/08/26−Twitlongerより 】