ワイルドタイガーのヒーロー名と、本名にも虎の名を持つにも関わらず虎徹はトレーニングルームでサボる姿ばかりが目に付く。
実際日系であり細身である虎徹にとって筋肉を如何に効果的に身につけるか――はヒーローを続ける上では死活問題だ。
しかし既に10年を超える長いスパンでヒーローを続けているだけあって虎徹の体は純度の高い実用的な筋肉を身にまとっている。
だからこそ他のヒーローたちは不思議がるのだ。
なぜあんなにも綺麗な筋肉を身につけていられるのだろうか――と。
虎徹が普段トレーニングをサボっているのは自分自身でオーバーワークにならないようにするためのスタンスでしかない。
今のアポロンメディアに雇われる前からずっと――それこそ虎徹が幼い頃から続けていることがある。
合気道を嗜んでいた祖父から叩きこまれた武術のいろはと、それに付随する基礎鍛錬のやり方だ。
特にネクストの能力が発動してから祖父は虎徹に容赦しなかった。
能力が発動し、他の家族が怪我をしているなか、唯一祖父だけは無傷で居たのを虎徹は覚えている。
手加減が出来るようになった年頃とはいえ、ネクストの能力が暴走することだってあったのに。
己の力に振り回されるな――毎日口酸っぱく言われていた言葉だ。
同時に「他者を傷つけたくないなら己を律しろ」とも同じくらい言われ必死に食らいついてた。
なによりレジェンドとの出会いが虎徹の歩むべき道を示してくれた。
だからこそ虎徹はトレーニングルームに置いてある器具で体を鍛えるのに違和感を覚えてしまう。
今まで虎徹が培ってきたものが馴染みすぎてしまっていることも自覚している。
けれど幼い頃から鍛錬してきた技の一つ一つを繰り返しながら、動かしている筋肉を確認する作業を怠る気にはなれない。
どんなに疲れていても、時には時間が取れずにいてもやはり一番鍛錬している時が落ち着くのだ。
心のなかの蟠りも、何もかもが掻き消えて真っ白になる瞬間を知っているから。
ジェイクとの戦いを経て、無事に退院した虎徹にドラゴンキッドは確信を持った表情のまま言い切った。
タイガーって絶対武術嗜んでるよね。それも長年慣れ親しんでるでしょう? と。
嘘は許さないよ、と暗に込められた眼差しに少しだけな、と返せば嘘つきっと言わて虎徹は凹みそうになる。
ぷぅを顔を膨らませていたドラゴンキッドが表情を変えてにんまりと笑んだ瞬間、彼女は虎徹に遠慮のない蹴り技を放った。
けれど彼女からの攻撃は虎徹に怪我を負わせることなく不発に終わり「ほらやっぱりそうだ!」と嬉しそうな声があがる。
カンフーを嗜む彼女の蹴りは相棒であるバーナビーほどの威力は無い。
けれど容赦なく急所に打ち込んだ一撃をいともたやすくいなしてしまえばドラゴンキッドほどの実力者には隠しようがない。
なにより、ある種の強さを持つものだけが放つ緊張感にも似たぴりぴりと肌を指す刺激にドラゴンキッドは高揚する気持ちを抑えきれず、つい口にしてしまった。
楽しそうに、嬉しそうに微笑んだまま「僕とちゃんと戦ってよ。タイガー」と――。
満面の笑みを向けられ、ついあぁいいぞと返事をしてしまったことに気が付き虎徹は頭を抱えた。
ただでさえ虎徹にとってドラゴンキッドは娘のように接してきてきるのだ。願い事は聞いてやりたくなる。
はぁ、と深い溜息をひとつ。
もう二度と使わない――と決めたはずなのに慣れ親しんでいたものはやはり無意識で出てしまう。
今だって親友のアントニオすら鍛錬し続けていることはしらないだろう。
人を傷つけるのが怖かっただけのあの頃とはもう違うの。
誰かを傷つけるためでなく、誰かを守るために力を使えばいい。ネクストの能力と同じように。
深く深く息を吸う。長く、出来るだけ長く息を吐きだし気持ちを落ち着かせた。
いつものようにドラゴンキッドの頭を撫でて、いつものように笑った。
ただし条件つけさせてもらうぞ――と伝えれば「うん。それでいいよっ!」ときらきらと目を輝かせながら返事を貰った。
正直、いくら体が慣れているとはいえいきなり実践で使うほど虎徹は馬鹿じゃなかった。
ある程度カンを取り戻したいと思っていたのだ。己で使うと決めたあの瞬間から。
そういう意味でドラゴンキッドからの申し出は渡りに船だった。
一度ドラゴンキッドと分かれた虎徹は一人、鍵のかかるトレーニングルームに篭った。
念のため相棒のバーナビーには居場所を伝えておいた。ついでに一人にしてくれ、とも。
長年の習慣もあってか虎徹は鍛錬している姿を誰かにみられるのを酷く嫌う。
己の本質とも言える攻撃性を秘めた部分を見せたくないからだ。
すでに片鱗を見せてしまっている以上、隠そうとは思っていない。
ただ、どうせならおちゃらけた三枚目なおじさんで居たいと願ってしまうのだ。
己の中に巣食う強い攻撃性を秘めた獣じみた本質を隠しておきたくて――。
手で顔を覆い隠しながららしくねぇよな――と虎徹はひとりごちた。
〜 Fin 〜
【 初出:2011/08/21−Twitlongerより 】