驚愕した表情のままバーナビーは頭を抱えたくなった。
器用に着ていたまま脱がれたように置かれた洋服の上にちょこんと行儀よく座る動物曰くバーナビーの相棒であるワイルドタイガーであり、鏑木・T・虎徹だと言うのだ。
「……どうしてこうなったか説明して頂けますね?」
緊張していた体から力を抜きながらバーナビーはため息を付く。
ついでに癖になっている眼鏡を持ち上げる仕草をすることで若干の冷静さを取り戻す。
ただきらりと反射した眼鏡の光が怖かったのか虎徹だという動物は一瞬だけ体を怯まながら、今までの虎徹と変わらぬ口調で話し続けた。
「とりあえず風邪みたいに誰かに感染ったりはしないから安心していいと思う。
ただ正直俺自身も良くわかってないんだ。まぁ以前もあったからまたか、みたいな感じだし」
「――以前?」
ぴくりとバーナビーの片眉が上がったのに気がついたのか虎徹だという動物はあーとかうーとかちょっと言いづらそうに言葉を続ける。
バーナビー自身さっきまでありえないとも、夢だとも思いたかったはずなのに何故か今ではすんなりと受け止めていることに密かに驚いていたが。
「以前なったときも一週間位で戻れたんだよ。だから今回も同じくらいで戻れるとは思うだけど……」
「だけど――なんですか」
「や、以前となんかちょっと感じが違ってたからもしかしたら一週間以上、もしかすっと十日位かかる……かも?」
「その根拠は?」
「えっと……感つーかなんとなく?」
「つまり根拠は無い、と?」
無言のままこくりと頷いたのを見て、バーナビーは右手で己の顔を覆い隠し天を仰いだ。
感、と一口で言ってもソレに付随するのは虎徹自身がヒーローとして過去に得た経験からくるものだ。
なにより虎徹自身が上手く説明出来ないからこその言葉なんだとバーナビーは理解していた。
「それでこれからどうするんですか。ロイズさんになんて言えば……」
「一番手っ取り早いのは人間を動物に変えるネクストと知らず知らずに接触してたって言えばいいんじゃね?」
「……貴方にしては頭が回りますね」
関心は半分。残りの半分は以前も同じように言い訳として使ったことがあるのかもしれないという憶測だ。
もっとも起きてからバーナビーが自宅に押しかけるまでに考えていた言い訳かもしれない。
「うわひっど! もうちょっと相棒を労るとかしてよっ!」
「まぁいいです。ロイズさんにはその方向で猫になってしまったとでも言っておきますよ」
「ばっさりかっ! って違うからっ! 猫じゃなくて虎だからっ! ちっちゃいけど虎だからこれっ!」
「どっちも大差ないでしょう。大きさは似たようなもんなんですから」
「猫と虎じゃ全然違うだろうがっ! 虎としての威厳がだなっ!!」
「虎徹さんの言うとおり虎になっていたとしてもどうみても子供ですよね。それだけ小さいんですから」
「う〜」
「唸っても事実は変わりませんよ……」
呆れた表情のままバーナビーはため息を付き、ベットへと腰掛けた。
上司であるロイズからの命令もあったが、正直バーナビーは心配していたのだ。電話も出来ないほど体調を崩しているのでは、と思っていたから。
それが現実はどうだ。予想の斜め上どころじゃない現実が待ち受けているではないか。ため息の一つや二つ付きたくなるというものだ。
「えっと……バニーごめんな?」
着ていた洋服の上にちょこんと行儀よく座り込む虎徹の姿はとても愛らしい。
しょんぼりと項垂れてしまった耳にぱたりと動かなくなった尻尾。
虎徹の琥珀色の目は金色に限りなく近い色となり、若干涙目になっていた。
泣きたいのはこっちなんですけどね――とは言わないが、そう思える程度にこの動物が虎徹なのだと納得してしまった己の頭脳がバーナビーには恨めしかった。ある種の諦め――なのかもしれないが。
「さすがにこんな姿じゃ電話に連絡しても悪戯だって思われるだろうしさ……。ほんとありがとうな」
「仕方ないですからロイズさんには僕から連絡しておきます。でもメディカルチェックは受けて下さいよ」
「おう、分かった!」
嬉しそうにぱあぁっと笑顔になった虎徹の尻尾もゆらゆらと揺れ始めた。
動物になっても中身は変わらないのか、とバーナビーは関心しながらロイズに連絡を取るべく席を立った。
ロフトから降りてロイズに電話をすれば「……仕方ないね」と苦笑いしながら会話を締めくくられた。
なんだかんだと彼自身心配していたのだろう。メディカルチェックは必ず受けるようにと念を押すのは忘れなかったのだから――。
―― END ――
【 書いた日:20011/09/25◆ABITIEYシリーズより◆初出:Twitter 】